「仮面ライダー THE NEXT」2007

1971年に放映開始された「仮面ライダー」は、現在40代の男性諸氏にとって大いに記憶に残るヒーロードラマだった。
もの心ついた頃に「ウルトラマン」という巨大ヒーロー特撮番組でTVに釘付けにされた少年たちは、当時次のウェーブに飢えていた。そこに突然提示された新鮮なヒーロー。ミニチュアの箱庭ではなく、新興住宅地の造成地のような場所を等身大で駆け抜け、闘い抜く孤独な主人公像は彼らの想像の中にズカッと入り込んできた。着ぐるみのチープさはありながら、何といっても仮面ライダーのデザインが彼らを惹きつけた。ダークな色調、生物感とメカニズム感の絶妙なハイブリッド。ウルトラヒーローが眩い光線技を駆使したのに対し、単純な殴る蹴るで闘う現実感。空を飛ぶこともなく移動手段はハイスペックのオートバイという現実感。それらがサイボーグ化によって超人的な力量を帯びるという想像がもたらす昂揚感。あの頃、このヒーローは新たな価値観を生み出していた。

昭和後半の“子ども向け”コンテンツを担っていた当時のオトナたちの発想のステロタイプは、ヒットキャラクターを常に幼稚化することで商品力の延命を図っていました。「仮面ライダー」もその例外ではなく、次第に劣化していかざるを得ませんでした。それが目を見張る程のリファインされた姿で当時少年だった男たちの前に現れたのは「仮面ライダークウガ」2000年。男たちはようやく溜飲を下げたのでした。

クウガ」でヒーロー・キャラのリファインの可能性を知った男たちの一部は作り手サイドから、劇場映画としてそれを創出することを試みました。2005年「仮面ライダー THE FIRST」がそれ。出渕裕によるリファインデザインは出色で、オリジナルのファン垂涎のカッコよさを創作してくれました。しかし、映画としての出来栄えはもどかしくも残念なもの。これだけのデザインが勿体無いと思わされたのでした。

「THE FIRST」のデザインと世界観を継続して2007年「仮面ライダーTHE NEXT」が公開されました。今度こそは、という期待に十分応えてくれたアクションシーンの連続で、前作より数段上のクオリティでした。その点は文句なし。今回はV3の造形も加わって、過去のデザインがリファインされる幸福を再確認させてもくれています。

しかし、やっぱり残念です。1本の映画作品としては暗澹たる気持ちにさせられてしまいました。ドラマがなっちゃいません。その不出来具合についてはネット上に批評感想がたくさん流通しているようですので省略します。こんなに素敵なデザインとアクション映像が溢れていながら、私は二度と観たいと思えないのです。評価したいのに失望せざるを得ない引き裂かれ感はつらい。
もっとも、あまりに多くの、かつての少年たちの希望と期待にすべて応えて新しい価値を生み出すのはそれだけ難しいということかもしれません。