サ行/邦画

「世界大戦争」1961

1.松林宗恵の描いた戦災 生前の松林宗恵監督に「世界大戦争」1961のお話をうかがった時、私自身が消化しきれなかった部分がありました。それは、監督が戦争の災禍を“人間の小賢しさで左右できない歴史の動き”として描いて来られた姿勢を語られたことでした…

「SPACE BATTLESHIP ヤマト」2010

「宇宙戦艦ヤマト」のファースト放映をリアルタイムで視聴したのは中学の時。毎週のTV放映の吸引力は当時強烈な記憶として残っています。「ヤマト」が再放映からブレイクして徳間書店の「アニメージュ」創刊を産み、今日のアニメ・サブカル文化の礎を形成…

「七人の侍」1954

10代の頃、井上ひさし氏の作品はよく読みました。大人になってからは氏の主張のすべてを支持するという訳にはいかなくなりましたが、それでもエンタメとして文学として、常に高いレベルの描写を生み出し続ける力量とエネルギーには圧倒されてきました。 例え…

「曽根崎心中」1978

「この世の名残、夜も名残、死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ。あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞き納め、寂滅為楽と響くなりー」 近松門左衛門の傑作浄瑠…

「その木戸を通って」1993(2008)

私は時代小説の熱心な読者ではないですが、山本周五郎と滝口康彦は愛読しています。周五郎の短編集「おさん」(新潮文庫)はとりわけ好きな一冊で、幾度も再読するので随分傷んでしまいました。その中に収録された一篇が「その木戸を通って」。これが映像化…

「サマーウォーズ」2009

経産省の資料によると、日本のコンテンツ産業の経済規模は約14兆円。そのうち映画興行(ソフト販売は除く)は2千億とあります。それなりの規模と感じますが、その隣に記されたパチンコ産業の数字は約28兆円。放送・新聞・音楽・出版・ゲーム・映画が束になっ…

「スカイ・クロラ」2008

押井守が「うる星やつら」をTVに劇場版にと描いていた頃の才気には憧れたものです。いつしか大御所ですが、まっとうに面白い作品づくりを忘れないのがオトナです。実写が撮りたいアニメ監督としてバランス感覚が見事なんですね。本作も、類似作が見あたり…

「接吻」2008

キリリと引き締まった良作。タイトルロールには2006年とあったので2年近く公開されていなかったということでしょうか。物語のモチーフは勿論、大阪池田小児童殺傷事件被告の獄中結婚。こういう素材は刺激に振り回されて興味本位に終始してしまいがちですが、…

「昭和枯れすすき」1975

上映時間87分のタイトな青春ミステリー。1本立て興行が主流になるのは1980年代半ばから。この映画も松本清張原作の「球形の荒野」との2本立て。当時流行ったさくらと一郎のデュエット歌謡に便乗した安直低予算映画の構えですが、中身はかなりの曲者。結城…

 「39 刑法第三十九条」1999

2000年前後、私は映画と縁遠くなっていた時期で、故に本作も観ないままに過ごしていました。それを後悔しています。これは傑作です。 森田芳光監督はデビュー作「の・ようなもの」1981からリアルタイムで観てきています。現在公開中の「椿三十郎」はちょっと…

 「さらば愛しき大地」1982

学生時代にリアルタイムで観た邦画の中でとりわけ印象深い作品でしたが、まだこの世を生きることの意味を殆ど知らなかった未熟な身では到底“好き”とは言いがたい種類の映画でした。 1982年の映画賞を総なめにした高品質の映画。昨年10年ぶりの新作「カミュな…

 「千年女優」2001

本作が文化庁メディア芸術祭アニメ部門大賞を「千と千尋の神隠し」と分け合った事実は、一般には殆ど知られていません。旬を過ぎた大御所の作品が持て囃される中でも、次代の才能はきっちり台頭しているものです。 事実「千と千尋・・・」のディティールの記憶…

 「七人の侍」1954

日本映画史上、本作ほどあらゆる属性の人々に評価された作品はないでしょう。それほどの作品、しかもあらゆる評価評論が語りつくされた名作を採り上げるのはあまりに敷居が高いのですが、敢えて記してみます。昭和29年は、日本映画界のひとつのピークの時期…

 「選挙」2007

フィルム収録でなくデジタルビデオですので、正確には“映画”と言い難いかもしれませんが、ベルリン・香港はじめ各国の映画祭に招待されていますので、映画の範疇に入れてもよいのでしょう。 今月、渋谷のイメージフォーラムで公開されています。今後順次国内…

 「衝動殺人 息子よ」1979

シナリオライター山田太一氏のキャリアの原点が故木下恵介の助監督だったことは大切な事実です。1998年12月30日に逝った木下恵介の葬儀にて、山田氏の弔辞より抜粋。「日本の社会はある時期から、木下作品を自然に受けとめることができにくい世界に入ってし…

 「上意討ち―拝領妻始末―」1967

前回の記述にあたって、改めて自分の鑑賞歴を思い返してみた訳ですが、世間評価がどうあれ好きな作品を再確認することになりました。 この「上意討ち」、まさにそうした1本です。原作は時代小説家滝口康彦。下級武士の苦悩と苦闘を題材に感銘深い短編を数多…

 「世界大戦争」1961

1961年、私の生まれた年は東西冷戦の真っ只中。終戦からもう16年、されど未だ16年。翌年にはキューバ危機が世界を震撼させた訳で、核戦争が身近な恐怖として自覚されていた年の映画です。30年くらい前はよくTVでも放映されたので断片的にご覧になった方も…

 「それでもボクはやってない」2007

周防正行監督の乾坤一擲の話題作。いや、これは素晴らしい。とても見事な映画に仕上がっていました。ストーリーは単純明快。 「痴漢の疑いで逮捕された無実の青年が否認を続けることで何を体験するのか」、それ以外の余計な要素はまったくなし。それでも上映…

「新幹線大爆破」1975

明けましておめでとうございます。一本調子の記事ばかりですが、覗いていただける皆さまの存在が嬉しくも心強いものと実感できた昨年でした。本年も何卒宜しくお願いいたします。 さて、新年の1本目は昭和50年の東映サスペンス大作。米国映画「スピード」や…

 「忍ぶ川」1972

72年のキネマ旬報ベストワンだった作品。熊井啓監督入魂の佳品。私は、何故この映画が当時そんなに高評価を得たのかずっと不思議に思っていました。 確かに俳優座の若手看板だった加藤剛と栗原小巻は、清潔で美しい恋愛映画の主役として極めてまっとうだと思…

 「サンダカン八番娼館 望郷」1974

“日本映画もここまで来たか、と言える映画が今年(1974年)2本出てきた。「砂の器」と「サンダカン八番娼館 望郷」だ” 当時よく聴いていた「淀川長治ラジオ名画劇場」で淀川さんが言われたこの言葉は明確に記憶に残っています。 山崎朋子のノンフィクション…

 「七人の侍」1954

迂闊でした。チケット購入に失敗しました。すぐ近所にある市のホールで黒澤映画を毎月1〜2本ペースで上映しているのですが、来月の上映が「七人の侍」なのです。この日本映画の至宝といえるコンテンツをスクリーンで観たいと思って心待ちにしていたのです…