「その木戸を通って」1993(2008)

私は時代小説の熱心な読者ではないですが、山本周五郎と滝口康彦は愛読しています。周五郎の短編集「おさん」(新潮文庫)はとりわけ好きな一冊で、幾度も再読するので随分傷んでしまいました。その中に収録された一篇が「その木戸を通って」。これが映像化…

「ワルキューレ」2008

ブライアン・シンガーがトム・クルーズを主演に監督した史実に基づく軍事アクション「ワルキューレ」。言わずと知れたドイツ国内で起きた最大規模のヒトラー暗殺計画をドラマ化。私はドイツ将校達がベルリンを舞台に英語劇を演ずる枠組み自体は好きではない…

「サマーウォーズ」2009

経産省の資料によると、日本のコンテンツ産業の経済規模は約14兆円。そのうち映画興行(ソフト販売は除く)は2千億とあります。それなりの規模と感じますが、その隣に記されたパチンコ産業の数字は約28兆円。放送・新聞・音楽・出版・ゲーム・映画が束になっ…

“和尚”と呼ばれた監督とのお別れ

9月10日午後1時半、成城の東宝スタジオ第8ステージにて映画監督故松林宗恵氏のお別れの会が催されました。強い日差しにカラりとした明るい空気。ロケには適した日和に思えます。かつて夢の工場と呼ばれた数々の名匠巨匠の仕事場に、シンプルで立派な祭…

「あゝ決戦航空隊」1974

“特攻の生みの親”と称された海軍中将大西瀧次郎。「仁義なき戦い」で勢いに乗った豪腕シナリオライター笠原和夫が彼に焦点を絞り込んで描いた渾身のシナリオを山下耕作が監督した大作。海軍将兵が皆ヤクザに見えるとか、東宝の「日本沈没」大ヒットに続けと…

「スタイル・オブ・市川崑」2008・DVD

故市川崑監督の映像作品集DVDを購入しました。通常の映画作品ではない短編や演出されたCM群を収録した特殊なコンテンツ集。昨秋発売されたことは知ってましたが、今回急ぎ入手したのは、大原麗子の訃報。このDVDには、あのサントリーレッドのCM集…

「風林火山」1969

井上靖の原作を稲垣浩が映画化した大型時代劇。伝説の軍略家山本勘介を主人公に、武田信玄の快進撃とその挫折を描く。クライマックスの川中島はじめ有名な戦国物語。小柄で異形とも言われる策士勘介を演ずるは大スター三船敏郎。それは、歴史のリアリティを…

「BOY A」2008

ノーマークで見落としていた英映画の小品。しかし観るべき価値のある佳作。“少年A”とのタイトルが示すとおり本作のモチーフは少年犯罪。それも“更正”を真正面から捉えてみせた。重いテーマながら観客の関心をラストまで引っ張る語り口と出演者の演技が見事。…

「ブラック・レイン」1989

公開から20年が経過したが、実はずっと未見でした。リドリー・スコットが大阪ロケで撮るサスペンスアクション。マイケル・ダグラスと高倉健の共演、当時旬のアンディ・ガルシアの出演等々。ワクワクさせる話題は尽きなかった。しかし、それらすべてを凌駕し…

「レスラー」2008

例えば表題の一文を知っていたり、主演のミッキー・ロークの人気絶頂期を知っているなど、この映画を隅々まで味わうには世代を選ぶかもしれない。しかし、それは自分がそういう世代だから思うのであって、素直に向き合えば誰でも必ず全身に響くものを受けと…

「冬の華」1978

当時既にTVドラマ脚本家として大御所だった倉本聰が、ファンである高倉健のために書き下ろしたオリジナルシナリオ。それを降旗康男が監督した東映映画。このトリオは1980年に「駅STATION」という傑作も生み出しましたがこっちもなかなか。私は大好きです。…

「スカイ・クロラ」2008

押井守が「うる星やつら」をTVに劇場版にと描いていた頃の才気には憧れたものです。いつしか大御所ですが、まっとうに面白い作品づくりを忘れないのがオトナです。実写が撮りたいアニメ監督としてバランス感覚が見事なんですね。本作も、類似作が見あたり…

「闇の子供たち」2008

阪本順治監督の意欲作。そして文字通りの問題作。幼児売春やペドフェリア(幼児性愛)を含む人身売買を直接描写として扱うため、さすがに子どもには観賞を薦められないという皮肉を背負う。しかし、大人世代には観賞義務くらい課しても良い。そう思います。…

「接吻」2008

キリリと引き締まった良作。タイトルロールには2006年とあったので2年近く公開されていなかったということでしょうか。物語のモチーフは勿論、大阪池田小児童殺傷事件被告の獄中結婚。こういう素材は刺激に振り回されて興味本位に終始してしまいがちですが、…

「ホット・ファズ “俺たちスーパーポリスメン!”」2007

昨年夏の劇場公開はファンのリクエスト運動の成果だったとか。ようやくDVD観賞。これはもう、理屈ぬきで支持。愛すべき素晴らしきバカ映画。こんな娯楽映画への愛情溢れる一本を手渡されたらお手上げです。小難しい御託はさておいて、存分に味わい楽しむ…

[カ行/洋画]「グラン・トリノ」2008

「グラン・トリノ」はシンプルな物語。しかし、誰もがいろんな視点から様々な感想と感慨を語らずにはいられなくなる。「優れたドラマとは、作者の意図に関わらず歴史や政治の暗喩に達してしまうものだ」とは、私の恩師の言葉ですが、本作はまさにそれ。C.イ…

[サ行/邦画]「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」2008

1972年2月28日、あさま山荘に警察機動隊が突入する日のTV中継映像は、長崎県佐世保市の小学校の教室で見ていました。当時の担任教諭の思想的立場など知る由もありませんが、授業を2コマ潰した記憶があります。それだけに記憶に鮮明な事件映像でした。しか…

[カ行/洋画]「告発のとき」2007

監督デビュー作「クラッシュ」2004でアカデミー作品賞&脚本賞を奪取したポール・ハギス。その監督2作目の邦題はあまりにもセンスを欠く。しかしこれは、静謐で芯のしっかりした社会派の良作です。配給担当者は作品を観て邦題を考えたのだろうか? 原題は「…

「西部戦線異常なし」1930

恥ずかしながらレマルクの原作を読んだことがありません。中学高校の教科書にはほぼ必ず記載があり、粗筋からラストシーンに至るまで解説されるのが常なので、直接手にとらずとも…。という気分で何十年も経過していた訳です。従って第二次大戦前のハリウッド…

「出口のない海」2006

丁寧に製作された誠実な映画。神風特別攻撃隊に比して知られざる戦術兵器と言える人間魚雷・回天の存在。それを改めて知らしめる製作意図には意義があります。本作を観た若い世代が、少しでも60数年前の事実の重みを受け継いでいくのならば、1本の劇映画と…

「クライマーズ・ハイ」2008

見応えある力作。地方新聞社の編集局の人間模様、その多様な登場人物の個性とせめぎ合いがすべて。その描写力は、現実の組織人の目にも十分な出来栄えで、評価されるべき映画になっています。ただ不満がない訳ではない。原作未読のため原作者の意図を汲取れ…

「ダークナイト」2008

アメコミには肌が合わず、もともとバットマンの物語には接点がありません。幼い頃に放映されてたアニメも、ティム・バートンがマニアックに創作したバージョンも縁がありません。前作「バットマン・ビギンズ」2005すら見落としている自分に本作を云々する資…

「大統領の陰謀」1976

1972年6月17日夜、米国ワシントンのウォーターゲートビル内にある民主党本部オフィスに侵入した不審者5人が現行犯逮捕された。彼らの目的は盗聴器の設置。当時は大統領予備選挙の真っ最中、現職のリチャード・ニクソン(共和党)の再選が確実視されていた。…

「帰ってきたウルトラマン/許されざるいのち」1971

完全無欠な無敵のヒーロー、ジェームズ・ボンドが傷だらけの人間へとリニューアルした様を見て、連想したのがウルトラマン。ウルトラマンは宇宙から来た銀色に輝く無敵の超人。1966年TV画面に登場した初期シリーズで彼はまさに完全無欠。子どもたちは実社…

「007/慰めの報酬」2008

2年前に「カジノ・ロワイヤル」を絶賛した故に、2作目は楽しみであり怖くもあり。世評は様々。躊躇しているうちに友人が観賞。先を越されたと慌てて駆け込んだ週末のレイトショー。結果は満足。今度も素晴らしい、いや本作の方を私は高く評価します。前作を…

「ノーカントリー」2007

昨年の今頃、世界的に圧倒的な評価を得た本作。コーエン兄弟の才気はよくわかるのですが、個人的にはどうにも相性が良くないです。確かに、トップシーンから中盤まで圧倒的に画面に引きつける上手さを伴った腕力はこの映画の大きな魅力です。1980年頃のテキ…

「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」2007

この数年で随分米国のメッキは剥がれたと思っています。しかし、こんな映画を見せられると、アメリカを舐めてはいけないと思い知らされます。ハリウッドはそうそう薄っぺらではありません。トム・ハンクス自身が製作にも参加して主演、「卒業」1967のマイク…

「昭和枯れすすき」1975

上映時間87分のタイトな青春ミステリー。1本立て興行が主流になるのは1980年代半ばから。この映画も松本清張原作の「球形の荒野」との2本立て。当時流行ったさくらと一郎のデュエット歌謡に便乗した安直低予算映画の構えですが、中身はかなりの曲者。結城…

「夕凪の街 桜の国」2007

映画としての完成度を云々する以前に、こうの史代氏の原作に心打たれていました。ずっとずっと気になっていました。レンタルにDVDが並んでから随分経ちますが、手に取る都度棚に戻していました。自分の中のひどく柔らかな部分に触れてしまいそうで何とな…

「4ヶ月、3週と2日」2007

昨年のカンヌ、パルムドール受賞作。ルーマニア映画は初見。1987年のルーマニア、ルームメイトを手助けするために奔走する女子大生の1日の物語。このところ口当たりのよい映画ばかりを手にしてきましたが、それらが飴玉に感じられるような辛口の切れ味。極…